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給電方式の変遷と今後の直流給電の可能性

常務取締役 EHS&S研究センター上級研究員 エネルギー技術本部長 情報システム技術本部長 山下骼i
エネルギー技術部 村上直樹

概要:
  直流給電は,通信ビル内における通信装置への給電や,電気鉄道における給電として普及しているが,商用電源のネットワークでは一部連系線を除いて交流給電が一般的である。これに対して近年,太陽光発電や蓄電池が直流で動作することや,通信ビル内での高信頼直流給電を活用できないかという観点で,直流給電が注目を浴びている。ここでは直流給電の可能性を検討するため,給電距離や給電電力,給電エリア,給電信頼性,発電設備・需要家設備との整合性など,給電系に対する要求条件について考察した。その結果,交流給電と比較して直流給電が適している領域は,大電力・長距離の給電,面的ではなく1対1の給電,高信頼性を活かした給電,太陽光・蓄電池を多数接続する給電であると示した。さらに上記直流給電の特徴を活かした給電システムとして,ビル間高信頼給電システムと低炭素電源の供給システムという2つの事例を示した。

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中国における三元系リチウムイオン電池の開発状況調査

EHS&S研究センター研究主任 バッテリー技術部主任 趙潔

概要:
  中国政府は自動車産業,特に新エネルギー自動車産業の発展に注力し,2012年に2012〜2020年の産業育成計画を策定して,購入時の優遇税制や,エネルギー密度が高い電気自動車により多くの補助金を交付する政策をとっていることも大きく影響していて,世界市場における先進的地位を占めていた。
  本報では,EV生産と普及を精力的に進めている中国に着目し,中国における三元系正極の開発状況を調査したのでこれを報告した。中国政の補助政策の下で各企業は高エネルギー密度電池を追及しており,高ニッケルNCMの研究開発は今後進展していくものと思われるが,安全性を含めたバランスの良い開発が求められると思う。

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海外の環境配慮型建築

EHS&S研究センター長 大島一夫
EHS&S研究センター研究主任 環境技術部主任 海藤俊介

概要:
  地球環境問題への対応,エネルギー安全保障の観点等から,各国でエネルギー消費抑制,再生可能エネルギー利用への取り組みが行われている。住宅・非住宅建築物に関しても,エネルギー消費を抑制する法規制が実施され,環境配慮建築物の認証を受けた建物,ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実施例も増加している。本稿では世界の業務他部門のエネルギー消費動向,海外の環境配慮型建築の例を紹介する。
  世界全体の最終エネルギー消費量に占める業務他部門の割合は8%で,この20年間に45%増加している。このため非住宅建築物の省エネルギーへの取り組みが重要になっている。
  このような状況の中で,ZEBや最高ランクのラベリングを目指して建設された環境配慮型建築では,外皮(壁,窓,屋根等)を高断熱にしたうえで,昼光の取り入れ,自然換気,蓄熱等を行えるようにしている。これらを効果的に実行するための各種センサーや高度な制御プログラムが実装されている。ライフサイクルでのエネルギー使用量や資源を削減するために,建築材料のリサイクルや,空調負荷が減った分の設備や設備機械室を減らしている。在館者に省エネルギーへの協力をしてもらうためのICTを利用した仕組みを用意したり,建物の使用方法に関する研修,問合せ先(コンタクトポイント)の設置などを行って,在館者との連携による省エネルギーを図っている。

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公共施設等総合管理計画のさらなる推進

取締役 EHS&S研究センター上級研究員 建築FM技術本部長 酒井修

概要:
  公共施設等総合計画は,すでにほとんどの地方自治体で策定済である(2016年度末で99.6%)。一方,2018年2月に「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針の改訂について」が総務省HPにて公開された。これは,策定済の総合管理計画について,指針を改訂することによりレベルアップを図ろうとする意図がある。
  策定済の総合管理計画は,地方自治体によってその内容にばらつきがある。適切な施設の総量の目論見や,その値に向かっていつまでにどのように対応するかといった,定量的な目標やプロセスが明示されていないままの計画も多い。
  現状の総合管理計画は,自治体によってはさらなる検討が必要であり,「不断の見直し・充実」によって総合管理計画の実現性を高めていくことが期待されている。計画の実施だけでなく,PDCAの考え方にたって,計画そのものの見直しを図ることも推奨することにより,計画の実現性と継続性を高めようとしている。
  総務省では,指針の改訂を踏まえた説明会を2018年4月に開催しており,その資料もHPにて公表されている。指針の改訂に関する説明の他,現時点での主要な課題である個別施設計画(2020年度までに策定)の策定方法に関する情報共有や,総合管理計画の実施に向けた財政面での支援策の説明も行っている。
  積極的に取り組みを進めている地方自治体の事例も,総務省をはじめ各自治体から公表されており,各自治体の参考となっている。
  指針の改訂により,総合管理計画で中期的な経費の見込みを30年以上の期間にわたって示すことが推奨されている。このように総合管理計画は長期の取り組みであることから,将来の不確実な部分が明確になっていく都度,計画を見直していくことを意図している。

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Activity Based Workingと知的生産性

EHS&S研究センター上級技師 環境技術部長 塚田敏彦

概要:
  本稿前段では海外の文献や国内でも広がり始めたABW事例や紹介等を基にして,国内でのABW 普及に役立つABWの概要を報告している。後段では筆者の本誌No.28(2017年6月)「知的生産性向上に向けたWELLNESSの動向」において提案している知的生産性恒等式との関連を考察し,合わせて恒等式の展開を紹介している。
  ABWのオフィスレイアウトの基本は多様性のある場であり,座席にはフリーアドレスと固定席とその混合タイプがバリエーションとしてあると考えると理解しやすい。多様な仕事内容に応じた多様な場の設置と利用は,コミュニケーションや生産性向上となる。フリーアドレス導入は,組織のモビリティやワークスタイルの特徴を基にした採用判断が必要である。国内におけるABWの導入には多くの組織の現状である固定席を基本にした多様な場の設置から始め,在席率減少に合わせたフリーアドレスへの段階的移行が,本格的なABWへの円滑な過程である。
  知的生産性向上率算出式は,@茅陽一東京大学名誉教授が提案した茅恒等式を基に,A環境省が提案したCO2排出量の分解による省エネルギー恒等式を参考にして,B筆者が考案した知的生産性恒等式を全微分してOutputで除したものである。各項の数値化指標候補を,複数になる場合は重み付けをした合計値とするなどして適正に選定できれば,これまで主観評価に頼っていた知的生産性が客観的指標の組合せで表すことが可能となる。今後数値化が可能になれば,大きな増加率を期待できる項目を重点的に伸ばすなどの戦略的利用が期待できる。

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測地系の変遷と世界測地系

EHS&S研究センター上級研究員 情報システム技術本部副本部長 久保田英之

概要:
  建物や土地の位置・形状を特定することはファシリティマネジメント業務において重要である。位置特定には緯度・経度が使われるが,国・地域ごとにその決め方にばらつきがある。日本においては,2001年の測量法改正の前後でそのルールが大きく変わり,改正前の天文測量により構築された座標系である旧測地系から,宇宙測量により全世界統一の測地原理に基づいた世界測地系を導入することとなった。しかし,現在でも旧日本測地系で作られた地図が流通しており,緯度・経度を使用する際は意識する必要がある。間違えると400〜500mの違いが出てくる。本稿では,位置を緯度・経度で表すためのルールである測地系と改正測量法で導入された世界測地系の理論的な定義について,座標系と楕円体とに分けて述べる。また,測量法改正以前の測地系の成り立ちについて述べると共に,世界測地系の導入経緯についてまとめている。合わせて,日本測地系原点・日本水準原点の役割と現状についても述べている。最後に将来展望として,地殻変動により地形の変形が起こることが多い日本において,常時宇宙測量を行い,地図を自動的に更新していこうとする試みを紹介している。自動運転車や自律飛行ドローンの実用化に欠かせない技術であり,今後の実用化に期待している。

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BIMによる情報流通の課題と展望

ユーザシステム開発部担当部長 森谷靖彦
ユーザシステム開発部主任 江藤久美子

概要:
  建物の維持管理や不動産流通には,BIMをプラットフォームとするデジタル化された設計情報の流通が欠かせない。しかし,現状普及しているBIMは,オブジェクトの標準化や構造化されたコード体系の整備が確定されておらず,建物情報を流通させるための仕組みが整っていない。
  こうした中,国土交通省は「建築BIM推進会議」を発足させ,BIMによる情報流通のしくみを官民一体となって推進することを決定した。こうした動きは,これまでBIMのメリットとして謳われてきた建築生産プロセスの局所的な業務効率の改善に留まらず,建物ライフサイクル全般においてその活用に大きな可能性が期待される。
  今後は,この情報流通プラットフォームに各種センシングデータから取得したデータを加えることで,さらに精緻な建物の未来予測を行うことも可能となり,建物の長寿命化やそれに伴うストック不動産の流通効率にも大きな影響を与えると考える。

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意思決定プロセスの可視化と防災

EHS&S研究センター技師 耐震構造技術部課長代理 早川輝

概要:
  日本では,行政により数百年に1度の確率で起こる自然災害に備えて構造物対策が進められると共に,災害対策基本法の下,非構造物対策も整備されている。人はそれに安心し,年月が経つと災害の伝承が途絶えがちになり,災害に対する備えを怠る。また,人が陥りやすい物事の捉え方の歪み(認知バイアス)により,行政から避難勧告を受けてから逃げれば良いと考える。行政主導の防災対策が高度化することによって,人と社会の脆弱性が増加し,このように人を「災害過保護」ともいうべき状態にしてしまう。自然災害に立ち向かうのは行政であり,行政の庇護の下に人がいるという構造である。確かに行政の努力によって,日本の防災課題は犠牲者をいかにゼロに近づけるかというレベルに到達した。しかしながら,行政主導の防災で犠牲者がゼロになることはない。ここから先は,災害に対峙した人が自らの命を守る行動が重要となる。
  防災対策において,「2S2H」が必要であるといわれる。ソフトとシステムの2つの“S”とハードとヒューマンの2つの“H”である。人は頭で正しく理解していても,正しい行動につながらないことも多い。東日本大震災では,高度な津波感知システムや情報伝達ネットワークを通じて事前に災害情報を得ても,逃げようとしない人もいたという。このことから防災対策が最も遅れているのは,“ヒューマン(人)”であるということもできる。
  ヒューマンの防災対策を考える上で,災害に直面した人の心理を正確に知る必要がある。このことを踏まえ,本稿では自然災害に直面した人の心理(意思決定のプロセス)を解き明かす方法を紹介すると共に,その結果を上手に利用し,ヒューマンの防災対策につながる行動を促す仕組み「ナッジ」について考える。

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人工知能(AI)と知的財産権

EHS&S研究センター知財マネージャー 橋広樹

概要:
  近年,技術革新が目覚ましい人工知能(AI)は,インターネットの普及によって容易に入手可能となった大量データから規則性や関連性を見つけ出し,判断や予測を行う手法であり,AIシステム開発を行う上で適切な知的財産管理が不可欠である。
  AIの発展を促すため,2019年1月に著作権法改正が行われ,「権利制限規定」の変更と「情報解析の結果提供」の条項が新設された。
  一般にAIによる生成物は,「教師データ(学習用データ)」「学習用プログラム」「学習済みニューラルネットワーク(学習済みモデル)」の流れで作成される。前記において特許として認められうるポイントを特許庁が示した事例により概説した。
  また,特許としてAI関連技術が認められるためには,学習データの追加,編集または前処理により顕著な効果があるか否かといった点がカギを握っている。

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寄稿:SDGsスマートシティ〜持続可能な未来をつくる

NTTファシリティーズ プリンシパルアーキテクト 横田昌幸

概要:
  世界でのIoT・AIの急速な技術の急速な進展により,日本においてもビッグデータを活用したデータ駆動型のスマートシティを構築し,Society5.0を早急に実現していこうという状況がある。日本経済の再生への期待と同時に,背景には気候変動問題に対応した脱炭素社会構築,日本の諸課題の根幹である人口減少問題,自然災害が多発する国土,などの今後の日本が直面する課題解決がある。これまで日本においてスマートシティは,資源エネルギー庁を中心として,低炭素社会構築のために再生可能エネルギーを活用した地産地消型の次世代分散型エネルギーネットワークを構築することとして取り組まれてきた。全国の地方自治体でも,民間のエリア開発のプロジェクトも同様に温暖化対策としての都市エネルギー問題を課題として実施されている。世界では脱炭素化に向けて動き出しており,SDGsは産業社会においても最重要の目標になっている。IoT・AIの新技術の特質は時間軸を含めた全体最適化であり,スマート=運用最適化といえる。最適化技術はほとんどすべての分野に応用可能であるが,持続可能な開発を目指すスマートシティでは,まず地球環境対策としてのエネルギー利用の最適化を第一義の目的とすべきである。NTTファシリティーズにおいては,自然エネルギー利活用や建物・設備の省エネにおいて多くの実績と技術の蓄積があり,また施設の運用管理において多くのデータを持っている。安心安全や省人化を含め,建物用途に応じた新たな価値を生むサービスはエネルギーネットワークをベースとしたスマート化から付随して生まれ得る。スマートビルの推進は制御可能なセンシングネットワークを広げていくことであり,それらがつながっていくことでスマートシティとしての新たな付加価値も生んでいく。大きな利便性をもたらすと同時に,脱炭素社会の構築を可能とするスマートシティが必要とされている。

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寄稿:病院の連立大便器の清潔感と供用性の検証

EHS&S研究センター研究アドバイザー 高草木明

概要:
  大規模総合病院の病院棟(556床)で2,829日,健康センター棟で2,286日にわたる保全記録から,便所内で発生する故障・不具合,計3,292件(衛生設備に発生する件数の59.9%)について分析した。
  便所内で発生する故障・不具合は,大便器に発生するもの(温水洗浄便座別途)が全体で46%に及ぶ。多くは詰りで,その内トイレットペーパーによる詰りが61.9%であった。
  病院棟の階別の故障・不具合件数をみると,温水洗浄便座,手洗い器・洗面台における件数は1階より外来診療室の多い2階が多く,2階トイレは使用頻度が高いことがうかがえる。一方,トイレットペーパー詰りは1階において顕著に多い。1階便所は公衆便所と同じように使用者のモラルにやや問題があると考えられる。
  大便器を使用しようとする人が選んだブースが,詰まっていたり漏水していたり,あるいはその他の故障・不具合状態にある確率を求める方法を導き,調査データを使ってその概数を把握した。
  N台の大便器が備えられた便所で,任意の時間に便所に入ったとき,使用中のものがk台であるとする。なお,使用中でない便器のうち,mは詰りや漏水など故障・不具合により供用不能な数とする。使用中でないN−k台のうち,m台が供用不能である確率を求める式を導出した。一般便所で大便器数6台の場合と3台の場合を例として,このような確率を具体的に計算した。
  この例の場合では,大便器使用者が詰りなどの生じた大便器に遭遇することはごく少なく,物理的衛生性というより感覚的な評価観点たるべき清潔感に問題はないと考えられる。また,大便器の故障・不具合同時多発で使用できるものがないという事態は,現実的には,ほとんどあり得ない水準と評価される。
  本研究の調査対象病院は,特殊な病院ではない。調査から得られた知見は,類似の病院の保全計画において便所のメンテナンスの負担を推定する際などのベンチマークとして活用されることを期待している。また,故障・不具合頻発個所は便所の弱点を示唆しているものであり,これを把握することは,設計や維持管理の改善につながると考えられる。
  医療・介護従事者はさておき,一般人は他人の排泄物を目にしたくない。建物環境評価において,健康への影響程度で測られる衛生性だけでなく,感覚的な清潔感を加え,その評価方法を確立することは今後の課題にあげられよう。本報文に示した衛生感を阻害する詰りなどのある大便器に遭遇する確率の計算手法なども,このような課題に通じるものと考えられる。

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